Contents
- 但し書き
- 文中の[[]]について
- 文章の信頼性について
- プロジェクトの概要
- GFDLに基づく「フリー」百科事典
- 編集方針とWiki
- プロジェクトの財源
- ウィキペディアとMediaWiki
- 議論はノート機能で
- 【表1】
- ウィキペディアにおけるsysop
- sysopのお仕事例−削除依頼
- どこから手をつけよう?
- コミュニティ・ポータル
- ウィキポータル
WikipediaとMediaWiki 1
12/5韓国のサーバについて訂正しました。これでfixします。エスケープのために全角で[[]]を書いています。原稿では半角に置き換えて下さい。
著者: Gleam(http://ja.wikipedia.org/wiki/利用者:Gleam)
はじめまして,Gleamです.ウィキペディア日本語版(http://ja.wikipedia.org/)のユーザのひとりとして,sysop(シスオペ)を担当しています.フリー百科事典「ウィキペディア」はJimmy Walesが理事長を務めるウィキメディア財団が運営しているプロジェクトで,200以上の言語でのべ180万項目以上が執筆され続けています(注1).日本語版はそのうち4番目の規模(約13万項目)で,検索エンジンの上位にもよく出るので一度はご覧になったことがあると思います.
残念なことに日本にはまだウィキメディア財団の支部がなく(注2),私たちsysopがインターネット上で日々の管理作業のお手伝いと広報対応を個人的に行っています.なかなかウィキペディアについて詳しく知る機会がないというお叱りを受けているのですが,今回幸いにも2回に渡って連載の機会を頂きました.今月はプロジェクトの概要と方針,ウィキペディアを動かすWikiソフトウェア「MediaWiki」について,来月号ではウィキペディアの運用上の課題点などについてちょっとだけお話できればと思っています.ウィキペディアに興味のある人だけでなく,世界最大のWikiであるウィキペディアを題材に,Wikiが急成長したときに起こるトラブルについても触れ,皆さんに興味を持っていただける内容になれば幸いです.
- 注1)すべての言語版のうち30ヶ国語版が1万項目以上を有しています.やや古いですが,統計資料がhttp://en.wikipedia.org/wikistats/JA/Sitemap.htmにあります.
- 注2)財団には現在アメリカ本部,ドイツ支部,フランス支部,イタリア支部,ポーランド支部があり,スイス,オランダ,ルーマニア,ロシア,セルビアモンテネグロ,イギリスで支部の設置を準備しています.詳細はhttp://wikimediafoundation.org/をご覧下さい.
但し書き
文中の[[]]について
文中,[[]]で囲ってある文字列はウィキペディアの記事を参照してください.ウィキペディアの「検索」窓にその文章を打ち込むと該当する記事を読むことができます.
文章の信頼性について
この記事はウィキペディアの利用者である執筆者の個人的な見解に基づいており,ウィキメディア財団の公式な見解を示すものではありません.
プロジェクトの概要
GFDLに基づく「フリー」百科事典
ウィキペディアのコンテンツは全てGNU Free Documentation License (GFDL)というコピーレフトのライセンスで提供されています(注3).GNUと同様にGFDLも「自由」を謳うライセンスで,履歴情報やライセンス情報を添付し,同一条件下で二次利用物をライセンスすれば自由に再利用が可能です(注4).ウィキペディアは財団の方針で広告を入れずに運営されていますが,ウィキペディアのデータを用いたビジネスを展開することも可能なわけです.例えば,どうしてもサーバが重くなりがちなウィキペディアのミラーを定期的に取って,バナー広告を付加して提供しているサイトがいくつかあります.
このような方針を採っているのは,ウィキペディアが無償の教材として第三世界の教育に役立てられたり,人類共有の知的財産として活用されることを目指しているからです(注5).実際,ドイツではドイツ語版ウィキペディアのCD-ROMが日本円にしておよそ500円で販売された実績があります.
- 注3)http://www.gnu.org/copyleft/fdl.htmlを参照.ウィキメディア財団が運営する他のプロジェクトではCreative Commonsライセンスなどの採用例もあります.
- 注4)厳密なライセンス条件については[[Wikipedia:著作権]]を参考にして,ご自身の判断でご利用になってください.表示されている画像についてはそれぞれの画像情報ページで別途ライセンスと履歴が表示されますので,クリックして確認して下さい.他プロジェクトから呼び出されている画像ではCreative Commonsライセンスでの利用を認めている場合もあります.また,これらのライセンスは著作権法上認められている「引用」を制限する物ではありません.
- 注5)関連プロジェクトとしてフリー教科書を作る「Wikibooks」もあります.http://ja.wikibooks.org/
編集方針とWiki
ウィキペディアは誰でもすぐに,編集することが出来ます(画像2).誰でも書ける百科事典が本当に品質を維持できるのか,というご質問をよく頂くのですが,案外うまくいっています.「間違っていたら誰かが直してくれる」ことを前提にしているのですが,そのために最適なツールがWikiだったのですね.
とはいえ,基本的な編集方針は存在します.それが「中立的な観点」です.この方針は[[Wikipedia:中立的な観点]]にまとめられており,この観点を持たない文章は誰かの手によって書き直されます.ただし,中立的ではないことを理由にいきなり削除することはありません.
日本語は主に日本人によって使われているのでしばしば見落としがちな点ですが,ウィキペディアは国際的に編纂,利用されている百科事典ですから,日本を前提とした書き方も場合によっては中立的とは言えません.WikiとWikiを簡単にリンクする,いわゆるinterwikiの機能がウィキペディアや各プロジェクトの間にもあり,各言語での記述を比較できることも中立性の確保に役立っています.[[Wikipedia:ガイドブック]]に,詳しい編集方針やよくある疑問ががまとめられています.
プロジェクトの財源
ウィキペディアは中立性確保のために広告を表示しておらず,サーバ増強のための資金は,個人の寄付を財源としています.寄付は常時,ウィキメディア財団のウェブサイトで受け付けています(http://wikimediafoundation.org/).2002年6月に行われたソフトウェアの更新から数えて,ウィキペディア日本語版だけで290万回近い編集がなされていますが,この猛烈なアクセスはフロリダ州にある Bomis.com のデータセンターに設置してあるサーバ群が処理しています.Bomis社はウィキメディア財団理事長のWalesが創業したベンチャー企業で,ウィキペディアに必要な通信帯域とサーバの設置場所を提供しています.
しかしそれだけでは不十分なため,ウィキペディアやその関連プロジェクトのサーバは地域ごとにアクセスを分散しています.フランスのLost Oasis,オランダのKennisnetからSquidサーバの提供を受けているほか,日本語版を含むアジア圏のプロジェクトはYahoo!から提供された韓国のサーバに2005年からホスティングされています(注6).
- 注6)原稿執筆時点の情報であり,アクセスが劇的に増加しているため随時追加されています.最新情報を知りたい方は,各プロジェクトを調整するWiki「Meta-Wiki」http://meta.wikimedia.org/ で「ウィキメディアのサーバ」と検索して下さい.
ウィキペディアとMediaWiki
ウィキペディアとその関連プロジェクトが利用しているPHPベースのWikiソフトウェア「MediaWiki」は,ウィキペディアとは独立したプロジェクトで開発されています.GFDLライセンスに準拠する強力な履歴機能や多言語対応,編集機能が設計されています.また,MediaWiki自体もGPLで配布されています(注7).
誰でもすぐに,ウィキペディアに記事を投稿することができます.試しに何かご覧になっているページで「編集」タブを押してみて下さい.メインページなどはセキュリティの問題から編集保護されていますが,殆どのページはWikiらしく編集できてしまうはずです.ゼロから記事を書くのは大変なので,まずは試しに誤字を訂正したりしてみてください.編集の際にはアカウントを作成してログインすると興味のある項目の更新を確認できるウォッチリスト機能,記事の移動,ファイルのアップロードなどの機能が使えますが,ログインせずに寄稿することも可能です.この場合,IPアドレスが名前の代わりに履歴に記録されます.
- 注7)http://www.mediawiki.orgからダウンロードできます.日本人開発者が少なく多言語対応などで助けを必要としていますので,ご興味のある方は是非開発にご参加下さい.
議論はノート機能で
ウィキペディアでは記事をより良くするために,あちこちで活発な議論がなされています.しかし執筆者よりも圧倒的に読者が多いウィキペディアでは,記事の中に議論が混ざってしまうと読みやすさが損なわれてしまいます.そこでウィキペディアには記事の裏ページとして「ノート機能」があります.例えば,[[ウィキ]]という項目の読みやすさについて,[[ノート:ウィキ]]で議論されています.ある項目について気づいたことがあれば,「ノート」タブをクリックして書き込んでみましょう.ただ,誰が何を言ったのか解らないと議論になりません.そこで,ログインした状態で文末に「--~~~~」と書くと日付とアカウント名の入った署名に置換され,これをウィキペディアでは簡単なサインの代わりにしています(署名はカスタマイズ可能です).この署名はどこからどこまでが自分の発言なのかを区切る目印にもなります.
「ノート:」のようにコロンの前に特別な名前のついたページが,このほかにもいくつかあります.これを名前空間と呼びます.ここでは代表的なものを【表1】でご紹介し,くわしい使い方は後々ご説明します.
【表1】
| 空間名 | 英語名 | 機能 |
| なし | 同 | 通常の記事空間 |
| ノート: | Talk: | 記事の議論スペース.すべての項目に付属する |
| 利用者: | User: | 利用者ページ.自己紹介や覚書などを書くことができる |
| 利用者‐会話: | User-talk: | 利用者ページのノート.新着通知機能があり,伝言板のように利用者同士の連絡に用いる |
| Wikipedia: | 同 | プロジェクト関連文書を置く空間 |
| 画像: | Image: | 画像などのマルチメディアを扱う.画像の履歴やライセンス情報,Exif情報などを独自に扱う |
| Template: | 同 | 記事中に挿入する書式や部品を置く |
| MediaWiki: | 同 | MediaWikiのインターフェイスに関する変数が格納されている |
| Category: | 同 | カテゴリ機能.カテゴリを貼った項目の一覧が自動的に表示される. |
ウィキペディアにおけるsysop
ところで私は前述したようにウィキペディア日本語版のsysopなのですが,sysopという言葉から,どのようなイメージを持たれるでしょうか.ウィキメディア財団のNPO職員?サーバーの管理者?ソフトウェアの開発者?いずれも違います.
ウィキペディアやその姉妹プロジェクトにおけるsysopは,ウィキペディアのユーザーのひとりに過ぎません.これまで説明してきたように,ウィキペディアは内容の正確性をユーザーの善意に委ねて,問題のある部分は誰かが手直しすることで自ら良くなっていくことを前提にほとんどのページの編集を万人に開放しています.しかし,すべての機能を初心者から上級者まで全員に開放してしまうと,誤操作や悪意ある操作による回復不能な被害を生じてしまうかもしれません.それだけ強力な機能がMediaWikiにはあります.そこで,削除や投稿ブロック,サイト全体に関わる設定など,全体の意見をもとに間違いなく操作しなければならない機能について,Wiki上でsysopという権限をアカウントに付与されたユーザーだけが操作できるようになっているのです.操作はできますが,sysopにはこれらを独断で行う権限はありません.一般的なWebサイトにおける「管理者」はサーバやサイトの所有者であり最終的判断の出来る人,という意味であることが多いので,誤解を招かないように「管理者」と言わずにsysopと名乗っている人が多いようです.判断までのプロセスについて,後ほど触れます.
編集回数や活動期間など一定の用件を満たせば,誰でもsysopに立候補することができます.信任投票を経て,sysopのアカウントを作成することのできる上位sysopであるBeaurocrat(ビューロクラット)が設定を行うと,そのユーザの画面にいくつかのボタンが増えます(画面3:上から順に非ログインユーザ,ログインユーザ,sysopの編集タブ).
sysopは自分たちのできる範囲や得意分野で管理作業を行い,ウィキペディア上やIRC,メーリングリストなど公開の場で連携を取っています.詳細については[[Wikipedia:管理者]]をご覧下さい.
また,複数の言語版や,ウィキメディア・コモンズなどの姉妹プロジェクトとのプロジェクト間の連絡はMeta-Wikiという専用の多言語Wikiで行っています(http://meta.wikimedia.org/).ウィキメディア財団はすべてのプロジェクトのユーザから選挙で選出された2名を含む,5名の理事会で運営されています.
sysopのお仕事例−削除依頼
よくウィキペディアのsysopをやっています,と自己紹介すると「大変でしょう,全部見ているんですか」といわれるのですが,もちろん全部チェックすることはできません.ウィキペディア日本語版は各言語版のなかでも比較的sysopが少ないことが問題視されていて,sysopの人数は現在31名,約2万7千人の日本語版登録ユーザーに対してわずか0.11%程度の割合です(注8).監視はユーザ全員で行っています.ユーザはウォッチリストなどで興味のある分野を巡回していますが,大規模な荒らしを監視するときなど,全体の更新情報を見たい場合もあります.しかし[[特別:Recentchanges]]で表示される更新情報はあまりに入れ替わりが激しいため,ウィキペディア日本語版ユーザのTietewさんが作成されたIRCbotの「linky-ja」で解析され,IRC上にリアルタイムで提供されています.興味のある方はirc.freenode.netに接続し,IRCチャンネル#wikipedia-ja-articlesをご覧になってみて下さい(注9).linky-jaには他にもリンクの自動生成や削除依頼文の作成,いくつかのジョーク機能があり,IRCから楽しくウィキペディアを参照できます.
実際に削除されるべき記事が見つかった場合の流れを見てみましょう。まず,著作権を侵害する投稿は,ユーザによって削除依頼のテンプレートを貼られ,[[[Wikipedia:削除依頼]]に出されます.膨大な数の削除依頼は,まずユーザたちの手によって最低1週間,削除すべきか調査・議論され,削除すべきと結論が出るとsysopが実際の削除操作を行います.何をもって削除が妥当とするかは難しい話なので次号に譲ることにしますが,ここではsysopの立場に注目してください.「信頼されたユーザー」という位置づけで,特別な権限が与えられるわけではないsysopは,合意に基づいて最終的な「操作を行う」だけなのです.これはボランティアベースの編集作業を進め,自治で出来ることを増やす良い仕組みだと思います.
一方,全くのデタラメな文章については議論を待たずにsysopが即時削除をすることがありますが,削除履歴についてはログに残るので一般ユーザーによってチェックが可能です.また,プライバシー侵害などの案件がこの一年間で増加しており,非公開で履歴を残さずに緊急削除できるように現在ルールを整備しています.本名や住所を公開していない一介のユーザであるsysopが,法的責任をどれだけ負えるかは微妙なところです.また掲載内容や利用に関する企業からの各種問い合わせもあり,日本において法的責任を負うことの出来る法人格が必要とされていると私は感じていますが,実現の目処は立っていません.
その他,sysopが実行できる機能にはWikiにおける一般的な荒らし対策である「ページの保護」や,より強力な「投稿ブロック」があります.来月号でいくつかの運用ルールをご紹介します.
- 注8)[[特別:Statistics]]を参照.数値は2005年8月現在
- 注9)[[Wikipedia:チャット]]に詳細な接続方法や他のチャンネルの解説があります.
どこから手をつけよう?
ウィキペディアにご興味はあるけど,どこから見ればいいのかわからない,という方も多くいらっしゃるのではないでしょうか.私は写真の投稿や誤字脱字の訂正,リダイレクトの作成(注10)などから始めたと記憶していますが,今月号のまとめにかえて,いくつかのきっかけをご紹介しようと思います.
- 注10)「#REDIRECT[[サンマ]]」と書いただけの項目「秋刀魚」を作ると,「秋刀魚」は「サンマ」へのリダイレクト(自動転送)になります.日本語には表記ぶれが多いため,この機能を活用して同じ内容の項目を複数つくらないようにしています.
コミュニティ・ポータル
このように巨大化したプロジェクトに対して,少しでも見通しをよくするためにいくつかの工夫がなされています.[[Wikipedia:コミュニティ・ポータル]]をご覧になってみて下さい.ガイドブック類のほか,内容の確認や翻訳などで手助けを必要としている編集分野,参考になる秀逸な記事の紹介,新規参加者へのTipsなどがコンパクトにまとめられています.まずはここをご覧になってはいかがでしょうか.
ウィキポータル
ある程度まとまった執筆者が集まった分野では,その分野のガイドとなる「ウィキポータル」を立ち上げています.[[Wikipedia:ウィキポータル]]にその一覧があります.[[Wikipedia:ウィキポータル 生物学]]は精力的に活動しているポータルで,特集項目や画像紹介は読む側にとっても興味をそそります.
いかがでしたでしょうか.この機会に読む側から,書く側,サポートする側についても興味を持って頂ければ嬉しいです.
来月号ではウィキペディアの抱えるいくつかの課題点についてご紹介します.現在も開発が続いているMediaWikiの最新機能もお見せする予定です.(つづく)