Contents
    1. 但し書き
      1. 文中の[[]]について
      2. 文章の信頼性について
  1. ウィキペディアにおけるWiki記法
  2. ウィキペディアをめぐる課題
    1. 知れば知るほど難しいGFDL
    2. MediaWikiの履歴機能
      1. 記事の削除と履歴のフクザツな関係
      2. 記事の移動
      3. 記事の分割と統合
    3. 編集合戦
    4. 基本は合意と協力
  3. マルチメディア化するウィキペディア
    1. ウィキメディア・コモンズ
    2. SVGファイルの編集機能
    3. あとがきにかえて

WikipediaとMediaWiki 2

10/16改訂しました。エスケープのために全角で[[]]、====ならびに{{}}を書いています。原稿では半角に置き換えて下さい。

著者: Gleam(http://ja.wikipedia.org/wiki/利用者:Gleam)

こんにちは,Gleamです.ウィキペディア日本語版(http://ja.wikipedia.org)のユーザのひとりとして,sysop(管理者)を担当しています.先月号ではウィキペディアの運営組織であるウィキメディア財団とプロジェクトの方針について―GFDLを採用したコピーレフトの方針,それを支えるWikiソフトウェア「MediaWiki」とその設計―ノート機能などによるコミュニケーション,信頼されたユーザとしてのsysopの位置づけなどについてご説明しました.その後ウィキペディアでページの編集をされましたでしょうか?アカウントを作成するとすぐに,誰かが会話ページに歓迎のメッセージを寄せたのではないでしょうか.

但し書き

文中の[[]]について

文中,[[]]で囲ってある文字列はウィキペディアの記事を参照してください.ウィキペディアの「検索」窓にその文章を打ち込むと該当する記事を読むことができます.

文章の信頼性について

この記事はウィキペディアの利用者である執筆者の個人的な見解に基づいており,ウィキメディア財団の公式な見解を示すものではありません.

ウィキペディアにおけるWiki記法

さて,先月はくわしくご説明できませんでしたが,ウィキペディアのWiki記法について実際の記事を使ってご紹介しましょう.手前味噌ですが,ウィキメディア財団のプロジェクトの一つである「ウィキニュース」についてウィキペディアで解説した項目を例に挙げます.編集画面には記法を呼び出すボタンがありますので,役立てて下さい.

【図版は編集文章仕上がりを対比させたものです。みやすく作り直してください】

(1)書きはじめ
ウィキペディア日本語版では「項目名(ふりがな)は、〜である。」という一文で項目を始めることになっています.日本語の索引は自動生成できないので,新しい項目を作ったときには[[Wikipedia:索引]]に自分で追加しておきます.
(2)画像
画像の呼び出しは[[画像:○○]]と書くだけです.パイプを用いてその後ろに横幅の指定(数字)あるいはサムネイル表示(thumb)の選択,右寄せ・左寄せ,画像のタイトルなどが指定できます.例ではサムネイル表示にした上でタイトルを指定しています.なお,この画像は後述しますがウィキペディア日本語版からではなく,ウィキメディア・コモンズから呼び出されています.
(3)見出し
見出しは==見出し==と書くことで生成されます.=の数を増やすと小見出しになります.見出しが一定の数を超えると文章の最初に目次が生成されるようになります.
(4)リンク
[[]]で囲った通常のリンクの他に,ここではパイプを用いたリンク表記と他プロジェクトへのinterwikiが利用されています.[[wikinews:Wikinews:Audio Wikinews|オーディオ版]]はウィキニュース英語版の「Wikinews:Audio Wikinews」という項目へ「オーディオ版」という文字列からリンクする,という意味になります.
(5)テンプレート
{{}}で囲われた部分はテンプレート機能を呼び出します.{{Commons|Wikinews|ウィキニュース}}では[[Template:Commons]]を呼び出して,変数1に「Wikinews」,変数2に「ウィキニュース」を代入しています.テンプレートの一覧は[[Wikipedia:Template メッセージの一覧]]を参照して下さい.
(6)カテゴリ
[[Category:ウェブサイト]]はカテゴリ機能を呼び出します.この項目には「ウェブサイト」というカテゴリが付与され,[[Category:ウェブサイト]]の項目を開いた際にはこのカテゴリに分類された項目の一覧が五十音順(文字コード順)に表示されます.漢字を含む項目の場合,カテゴリ表記にパイプを用いてふりがなを与えることができます.
(7)他言語へのリンク
他言語版ウィキペディアとのリンクを最後に列挙します.[[ru:Викиновости]]はロシア語版ウィキペディアの対応項目へのリンクです.

もちろんすべての機能を一気に使いこなす必要はありません.リンクやフォーマットは熟練したユーザがすぐに改善してくれるでしょう.ページの編集は大胆に!がウィキペディアの合い言葉です.

ウィキペディアをめぐる課題

さて,ウィキペディアの編集方法が少しわかったところで,ウィキペディアの課題点を,Wikiが抱える共通の問題から,ウィキペディアに特有のトラブルまでいくつか挙げてみようと思います.

知れば知るほど難しいGFDL

オープンソースのソフトウェアを扱われている方ならよくご存じだと思いますが,「著作権フリー」と「コピーレフト」は全くの別物です.ウィキペディアは将来に渡って公正で安全に知的財産を共有できるように,Free Software Foundationが作成しているドキュメント用ライセンスであるGNU Free Documentation License (GFDL)(注1)を採用しています(後述するウィキメディア・コモンズから呼び出された画像などはこの限りではありません).GFDLのもと履歴情報やライセンス情報を添付し,同一条件下で二次利用物をライセンスすれば自由に再利用が可能です.ただ,このライセンスは百科事典を前提に作られた物ではありませんし,日本の著作権法と矛盾する部分を抱えていたりするため,今もしばしば議論がなされています.なお,サーバは国内にありませんが,日本語版では日本の法律を遵守する方針を採っています.詳しい解説は[[Wikipedia:著作権]]を参照して下さい.

ウィキペディアに文章,あるいは画像やマルチメディアを投稿する際には,その内容物をGFDLの元に再配布,再編集を許諾することになります.GFDLは商用利用を含めた再配布の許諾を含むので,基本的に自分の著作物であるか,著作権の及ばないパブリック・ドメインの素材を用いることになります.自分の著作物である場合,投稿した部分の著作権は投稿者に帰属します.つまりウィキペディアに投稿した文章の著作権は,ウィキメディア財団に移行するものではありません.どこかに消滅するわけでもありません.

いわゆる「フリー素材集」からウィキペディアに文章や写真が転載されることがしばしばあるのですが,フリー素材集も再配布は認めていなかったり,出典の表示を厳密に求めている例が多いため,配布元に問い合わせた結果,最終的に削除されているケースが多いようです.商標などはもちろんですが,市章のような公共的なものであっても,著作者がいますし,利用規程とGFDLが矛盾することも多いので掲載されていません(注2).

「著作権を放棄する」といった表現もしばしば混乱を招きますが,日本の著作権法では著作物を作成した時点で著作権が発生し,その著作者に関するすべての権利を放棄することはできません.また,アメリカではフェア・ユースという概念の元に,一定の範囲で他者の著作物を引用する慣習がありますが,日本ではこのような権利は認められていません.政府の作成した著作物についてアメリカでは著作権が存在しないことになっていますが,日本では法令など限られたものを除き,著作権が存在します.どの国の法律に準拠すべきか,という議論も起こるのですが,日本語版では日本国内法に準拠しようという方針の下に行動しています.そのため,ウィキペディア英語版(http://en.wikipedia.org/)では非常に豊富に見える図版や資料が,日本語版ではやや少なく見えるのです.

大変光栄なことに文筆業の方からご投稿頂くこともあり,その際に自分が書いた本を転載する分には自由だろう,と主張されることがまれにあるのですが,これも最終的にはご遠慮頂いているケースが多いのが実情です.著者と出版社の契約内容にもよりますが,出版物と同じ文章がGFDLで発行されると,出版社の複製権を侵害することになる可能性が高いからです.また,投稿者が著者本人かどうかの確認も事実上困難であること,出版物の転載は文章が一致しているか判定するための調査が極めて重い負担になることが,このようなケースを忌避させているようです.私も何度か,転載を確認するために大きな大学図書館に足を運んだことがあります.

引用ならどうか,となるとさらに状況は混乱しますが,ウィキペディアの基本的な編集方針である「中立的な観点」に立ち返れば,ある特定の文章を引用しなければ成立しないような文章は避けるのが妥当なのではないか,という結論に至るのではないでしょうか.悩ましいのは楽曲の類で,項目を執筆する上では有用な引用であっても,多くの場合歌詞は発見され次第削除されています.

このような問題は,多くのWikiが抱えている共通の課題だと思いますが,監視と削除のほかに対応のしようがないのが実情のようです.投稿された文章の中に外部サイトとの類似が投稿文章にあることを新規参加者の方に指摘すると,「そこまできっちりと権利処理をしているとは思わなかった,全部の投稿を撤回したい」と申し出られたことが何度かあります.問題を回避するためにはまとまった文章をゼロから書き始めなければならないわけですが,それは気軽に投稿できるWikiの仕組みと裏腹にかなり大変なことで,Wikiが利用者に与えるイメージとのギャップを感じています.適度な緊張感と,気軽に参加できるムードのバランスを取るための工夫が,削除などの運用やコミュニティの呼びかけだけでなく,Wikiの設計レベルから必要とされています.

MediaWikiの履歴機能

さて、GFDLに基づいてウィキペディアのコンテンツを利用する際に表示が求められている「履歴」を管理するために,MediaWikiには強力な履歴機能が搭載されています.単なるバージョン管理のみならず,投稿者(ログインせずに編集した場合投稿者のIP)とすべての版の全文が一字一句残さず保存されることになっています.気に入った記事を見つけたら,ぜひ履歴にも目を通してみて下さい.要約欄にどのような編集をしたのか記述があるため,その記事がどのような変遷を辿ったのかがわかります.投稿者の利用者ページへのリンクが貼られているため,同じ投稿者による他の記事を参照したり,コミュニケーションを取ったりすることができます.また,履歴を比較して差分を表示することもできますし,sysopは版の巻き戻しもワンクリックで可能です.

記事の削除と履歴のフクザツな関係

では,問題のある投稿を発見した場合には巻き戻しをすればよいのでしょうか.巻き戻しは過去の版を最新版に再度投稿する操作となるため,問題のある版は過去の履歴に残ってしまいます.従って,著作権侵害などの問題に関してはこれでは不十分です.また,部分的にでも権利を侵害している文章がその後の版にも引き継がれている場合,だるま落としのように途中の版だけを削除することはできません.先月号でご紹介したように,記事削除の是非は[[Wikipedia:削除依頼]]にユーザが提案し,調査と議論の結果コミュニティの投票で決定します.sysopが行う削除操作はGFDLとの整合性と保つため,問題のある特定の版以降のすべてを削除するような,多少勿体ないケースもあります.

記事の移動

ここまでご説明して,一般的なWikiを使いこなされている方にはこのような疑問が湧くかもしれません――記事の名前を変えたいときはどうするのだろう?お気づきの通り,この履歴機能は一般的なWikiで行われているようにある既存の項目Aから別の項目Bに記事をコピーアンドペーストすると,項目Aの履歴が項目Bに継承されず,破綻してしまいます【図版参照】

このような行為を悪意で行われると大変複雑な問題に発展するのですが,百科事典では項目名をより適切なものに変更したいケースがしばしば発生します.しかしMediaWikiでは項目名がそのままURLの一部になるため,項目名を変更したいとき,そのページのまま項目名だけを変更することはできません.例えば項目Aを項目Cという名前に変えたいときはどうすればよいのでしょうか.そういったときのために「移動」機能があります.

ウィキペディアは匿名でも利用できますが,ログインすると利用できるようになる強力な機能のひとつです.これは履歴とノートを含め,ある項目を別の新しい名前に丸ごと移動する機能です.項目Aの画面で移動機能を呼び出し,新しい項目名「項目C」を指定すると,MediaWikiは項目Cが既に存在しないことを確認した上で自動的に新規作成し,項目Cには項目Aの最初の執筆からすべての履歴が残ります.同時に項目Aの跡地には自動的に,項目Cへの転送ページ(リダイレクト)が作成されます【図版参照】.この機能がログインしないと使えない背景には,ウィキペディアにおける命名規則には多少ややこしい慣習があり,合意形成に基づくべきところが大きいので,無駄な移動合戦を防ごうという意図があるようです.移動によって元々項目Aにリンクを張っていた項目にも大規模な変更の必要性が出ることも多いので,こういった処理は経験豊富な投稿者に相談するのがよいでしょう.

記事の分割と統合

さらにややこしい問題です.項目Aの一部分だけを項目Dに移動したり,項目Aと項目Eを統合して項目Fを作りたいときは,どうしたらよいのでしょう?こういったケースでは,依頼に基づきsysopが特殊な操作をして,二つの項目の履歴を強制的にマージしたり,履歴に残る「要約欄」に出典となる項目の履歴情報を書くことで対応することがあります(注3).この対応は厳密にはGFDLに対するウィキペディアの解釈と矛盾する場合があり,現在もより良い解決のためにMediaWikiの改良などが議論されています.

百科事典の項目をできるだけ細かく分けるか,あるいは網羅的な項目を書くか,というのは難しいところで,しばしば分割や統合の依頼が出ています.ちなみにウィキペディア日本語版は小項目主義,英語版には大項目主義の傾向が見られると言われているようです.

  • 注3)[[Wikipedia:記事の分割と統合]]に草案と現在の暫定的な対処ルールがあります.また,他言語版の項目を翻訳して記事を作成する場合も要約欄への履歴記述で対応しています.例に挙げている項目「ウィキニュース」の履歴でも,初版で英語版の履歴が記載されています.

編集合戦

ウィキペディアで起こるトラブルは,著作権侵害,GFDL履歴不継承だけではありません.次に多いトラブルは「編集合戦」です.同じ項目への頻繁な投稿は履歴が見にくくなることから,ウィキペディアでは記事をよく推敲してから投稿することを推奨していますが,記事がよりよくなる限りは,基本的に積極的な投稿は歓迎されるべきことです.しかし残念ながら,特に政治や宗教など,微妙な解釈の違いが起こりやすい項目では,複数人の投稿者がお互いの投稿部分を削除し合うようなトラブルが,しばしば起こります.このような項目はお互いに冷静になってもらうために一旦「編集保護」されます.またウィキペディア日本語版には「3 revert ルール」という慣習があり,お互いの投稿を3度削除しあった投稿者は一時的に投稿をブロックすることがあります.

基本は合意と協力

内容が不十分,中立的でない,文章が稚拙,画像が実用に耐えない,などの問題は,基本的にお互いに補いあうことで解決することになっています.このような項目を発見したときには,読者によりよくしている途中である旨を断り,投稿者に改善を促すために用意されたテンプレートを貼り付けます.特に書きかけを示すテンプレート{{Stub}}はよくご覧になるのではないでしょうか.これらのテンプレートが貼り付けられている項目は「この項目にリンクしているページ」を探す機能で辿ることができるほか,先月ご紹介した「ウィキポータル」と呼ばれる分野別ポータルでも紹介して,補筆してくれる執筆者を募集しています.もし何か執筆してみたいけど何を書けばいいのかわからない,という時は,ぜひこういったポータルを活用してみて下さい.

マルチメディア化するウィキペディア

少し堅い話題が続きましたので,最後にMediaWikiに最近搭載された機能について,特にマルチメディア関係を中心にご紹介したいと思います.

ウィキメディア・コモンズ

GFDLがアクセス自由なファイル形式を維持することを要求しているため,MediaWikiでは基本的に誰もが編集可能なファイル形式を扱うことになっています.本文はプレインテキストですし,画像はJPEG・PNG・SVG,オーディオファイルはOgg Vorbisを受け入れています.マルチメディアはウィキペディアにもアップロードすることができますが,多くの言語で別々にアップロードする煩雑さを回避するために,それらを専門に受け付ける「ウィキメディア・コモンズ」(http://commons.wikimedia.org/)が出来ました.ウィキメディア・コモンズはGFDL,パブリックドメインのほかにCreative Commonsライセンスも受け付けており,GFDLでライセンスされているもの,パブリック・ドメインに属するものはウィキペディア日本語版にも引用することができます.このとき,ウィキペディア内のデータなのか,コモンズのデータなのか意識せずに利用できるように,データベースは完全に連動しているのが特長です.

コモンズで紹介されている画像には美しい物が多く,これらがコピーレフトで提供されているというのはとても魅力的なことです.私はコピーレフトの画像を使って,GFDLライセンスのマグカップを手作りして販売したことがあります.

SVGファイルの編集機能

文章と異なり,図版は複数人で編集するのが非常に困難なのが実情でしたが,MediaWikiはバージョン1.6でSVGファイルをブラウザ上で編集できる機能を搭載しました.ある人が描いた優れた図版を,他の言語に翻訳したりするときに活用されることが期待されています.

【図:http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/9/90/MediaWikiExternalEditorImage.png

その他MediaWikiではTeX形式での直接記述,画像のリサイズ,簡易年表作成機能(英語のみ),また意外なところでは象形文字のヒエログリフ記述機能などが搭載されています.百科事典の編纂という特殊な目的を達成するために開発されいるWikiツールとして独自の進化を続けているMediaWikiですが,ぜひ日本でWikiツールを開発されている皆さんとも交流できると,もっと面白い機能が作れるのではないかと思います.MediaWikiはGPLライセンスで配布されています.配布サイト(http://www.mediawiki.org)をご覧になってみてください.

あとがきにかえて

さて,2回に渡って私のつたない文章をお読み頂き,ありがとうございました.ウィキペディアは知の権威である百科事典を編集している一方,実態としては私のように大学生などの若い人々が沢山関わっています.Wikiに特有の「どこから読めばいいのかわからない」状況も,ポータルの整備などで順次改善されていますので,ぜひこの機会に,ウィキペディアの興味ある分野に関わってみて頂ければ幸いです.

Last modified: 2011-04-19 Attached files total: 48MB