Contents
    1. Web 2.0とWiki
    2. 企業が取り組むWiki
    3. Wikipediaよりも重要なもの
    4. Wikiの未来とWikiの本質

yomoyomoのWikiばなし(2006.07)

第12回:Wikiの未来とWikiの本質

 本連載を通じてそのときどきのWikiに関する話題を取り上げてきた「yomoyomoのWikiばなし」ですが,最終回はその拡大版としてこれまでの内容を踏まえ,Wikiの現状と未来について論じたいと思います.

Web 2.0とWiki

 近頃は猫も杓子もという感じで「Web 2.0」いう言葉が濫用されており,正直言ってこの言葉には食傷なのですが,ウェブ関係の技術動向を追う際にこれを避けられないのも確かです.

 ティム・オライリーが論文「Web 2.0:次世代ソフトウェアのデザインパターンとビジネスモデル」(http://japan.cnet.com/column/web20/story/0,2000055933,20090039,00.htm)においてWeb 2.0の原則として挙げる「参加のアーキテクチャ」,「プラットフォームとしてのウェブ」,「集合知の利用」といった言葉はそのままWikiにあてはまるもので,WikiがWeb 2.0の潮流に合致するシステムであることが分かります.

 しかしそれ以上に特筆すべきは,Web 2.0という言葉で括られる技術トレンドがWikiに応用されることで,これまでWikiの弱点とみなされていたものが克服されつつある点です.

 具体的には,入力インタフェースとしてのウェブブラウザの貧弱さはそのままWikiの弱点でもあったわけですが,Ajaxに代表されるJavaScriptを用いたリッチクライアント技術は,WikiのWYSIWYG編集を可能にし,Wiki利用の参入障壁を下げています.またWikiの問題として挙げられる代表的なものに,Wikiエンジン毎に記法が異なるため,システムを乗り換える度に記法を覚え直さなければならないことがありますが,WYSIWYG編集はこの記法の相違を隠蔽する効果もあります.

 またWikiシステムの多くは,ページがすべてフラットに扱われるため,ページ数が増えるに従いその分類と管理が難しくなることが指摘されてきました.ページに階層構造を適用するWikiエンジンは既にありますが,決定的な対策にはなっていませんでした.それに対し,一連のソーシャルブックマークサービスに端を発するタグシステムをWikiに適用することが,ページ分類の問題の有力な対策と浮上しています.

 全般的に見て,Web 2.0という言葉で括られる技術が,Wikiにポジティブな効果をもたらしていると考えてよいでしょう.上記のWYSIWYG編集やタグシステムを導入したWikiシステムの最新形の一例として,Wetpaint(http://wetpaint.com/)が挙げられます.

企業が取り組むWiki

 この一年でWikiを巡る動向で最も重要なのは,Wikiを採用する企業の増加かもしれません.例えば,インターネット商取引企業の代表格であるAmazonがProductWiki(http://www.amazon.com/gp/wiki/what-is-this/)でユーザ主導での商品情報の充実を図り,世界最大のコンピュータ企業であるIBMはQEDwiki(http://japan.zdnet.com/news/devsys/story/0,2000056182,20102722,00.htm)でエンドユーザーによるプログラミングの実現を目指してます.いずれも単なる目新しさだけでなく明確な目的意識を持ってWikiを採用しているのが分かります.

 これから企業において,社内向け/社外向けを問わず用途に応じてblogだけでなくWikiも利用する動きが広がるのではないでしょうか.

 企業向けWikiソリューションを提供する企業として,本欄の第一回でJotspot(http://www.jot.com/)とSocialtext(http://www.socialtext.com/)を紹介しました.前者はコラボレーション用アプリケーション構築プラットフォーム,後者はエンタープライズ向けソーシャルソフトウェアを目指して順調に資金調達,新サービスの提供を行っているように見えます.この二つに加え,よりハイエンド向けのエンタープライズWikiであるConfluence(http://www.atlassian.jp/software/confluence/)を開発するAtlassianが企業向けWikiソリューションを提供する代表的企業と言えます.そしてConfluenceが,日本において企業用Wikiソリューションを提供する最初の企業になりそうです.

Wikipediaよりも重要なもの

 ユーザビリティ専門家として著名なヤコブ・ニールセンが,「Webにまつわる大騒ぎは見当違い」(http://www.usability.gr.jp/alertbox/20060403_hype.html)という文章で,企業内で実用本位に利用されるWikiは,オンライン百科事典Wikipediaよりも大きな価値を有しており,我々の働き方を変える可能性があるという興味深い指摘をしています.

 一方でニールセンは,Wikipediaをハイパーテキストとしてのウェブサイトへ立ち戻ることの利点を示すものと評価しており,決してWikipediaを貶めているわけではありません.

 ニールセンとは違った意味になりますが,当方もこの一年で,Wikipediaは例外的存在であり,これとWiki一般を分けて考えるべきだと思うようになりました.もちろんWikipediaはWiki最大の成功例ですが,あまりにも巨大化しており,個人であれ企業であれWikiを構築する場合に目標とすべきロールモデルにはならないと感じます.

 もはやWikipediaが何らかのニュースにならない週はないと言ってよいほどですが,個人的にはWikipediaの項目数やその内容そのものよりも,Wikimedia財団が(現在のように創始者のジミー・ウェルズ一人が目立つのでなく)編集合戦,記事の中立的な観点,匿名性の問題といった課題に取り組む集団運営体制を築けるかといったことに関心があります.

 Wikiコミュニティ全体に及ぼす影響としては,Wikipediaで採用され,欧米で最も利用されるWikiエンジンの一つであるフリーソフトウェアMediaWiki(http://www.mediawiki.org/)の開発の方向性もWikipediaそのもの以上に重要かもしれません.

Wikiの未来とWikiの本質

 本連載においても二度に渡り記事を執筆されている江渡浩一郎氏が,Wikiの国際シンポジウムWikiSymで見られた対立について重要な投稿をしています(http://qwik.jp/wiki-study/3.html).提示されている論点はいくつかありますが,ここでは最初に書かれている「Wikiの構造をデータベースのように発展させようとする一派と,あくまでもテキスト(文章)に留めようとする一派」の話を中心に考えます.

 当方はWikiの機能性の一部が既存のアプリケーション(例えばオフィススイート)に取り込まれていくことを本連載で予想していますが,同じ目的を達するのに逆にWikiのほうを変化させるという方向性も当然考えられます.

 Wikiのページ構造,入力形式を固定化すればWiki利用の参入障壁は確実に下がりますし,各ページの内容のフォーカスが定まるという効果もあります.前回紹介したオープンソース情報データベースSwik(http://swik.net/)がその一例です.

 ここまでくればWikiの構造をデータベースにしようと考えるまであと一歩です.確かにWikiのページ内容をかっちり構造化してデータベース処理できるようにすれば処理効率が上がる局面は多いでしょう.

 しかし,それはWikiの自由度を,利用者による発展の可能性を確実に減じてしまいます.そうした観点からすれば,匿名性の問題を含め江渡氏の主張が一貫しているのが分かります.

 ここで当方が思い出すのは,同じく江渡氏による「WikiはWebと同じ部品からできている」という文章です.この言葉に照らせば,Web 2.0だろうが3.0だろうが,ウェブというシステムの必然的な発展であれば,それにWikiが入るのはまったく不思議ではないのです.上に書いたようにニールセンが,「ハイパーテキストとしてのウェブサイトへ立ち戻ることの利点を示してくれている」とWikipediaを評価するのも同じことだと思います.

 そして,それならWikiの本質は何か? そもそもWikiとは何か? という疑問に行きあたります.恥ずかしながら,これは現在も当方にとって答え難い質問であるのを告白せねばなりません.

 Wikiの未来を考える場合,(当方の文章もそうですが)我々はどうしても機能の増加を重視してしまいます.しかし,江渡氏が書くようにWikiの本質に「機能の欠如」があるのなら,Wiki開発者は,何を加えるかの前に,何を変えないか,さらには何を欠けたままにしておくかを考えるべきなのかもしれません.

 Wikiがこれからも誰もが編集できるという参加性,ウェブページ間を簡単に結びつける接続性,そして何より多様性を備えた風通しの良いシステムであり続けることを願います.

Last modified: 2006-05-07 Attached files total: 48MB